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この改訂版の特色
1950年に「クリスチャン・ギリシャ語聖書 新世界訳」が英語で発表され(日本語版は1973年),1961年には「新世界訳聖書」全巻が発表されました(日本語版は1982年)。以来,原語からの正確で読みやすいこの翻訳は,210以上の言語で多くの人に読まれ,親しまれてきました。
とはいえ,この半世紀の間に言葉は変化してきました。現在の新世界訳聖書翻訳委員会は,そうした変化に対応すべきであると考えました。現代の読者の心に響くようにするためです。それで,英語の改訂版が2013年に発表され,文体や語彙にかなりの変更が加えられました。同様に,今回,日本語版にも変更が加えられています。目的は以下の通りです。
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理解しやすい現代の言葉を使う。例えば,「僕」という語は古めかしく,現代では一般にあまり使われません。それで,元の原語は,文脈に応じて,「召し使い」,「家来」,「仕える人」,「奉仕者」,「従者」などと訳されています。(創世 26:14。出エジプト 5:21。申命 32:36。ヨシュア 1:7。サムエル第一 25:10)箇所によっては,そうした訳の代わりに,原語にある低姿勢なニュアンスが敬語表現によって訳出されています。(創世 18:5)「奉仕の僕」は「援助奉仕者」に変更されました。(テモテ第一 3:8)
「義」も古風で意味がつかみにくい語です。この改訂版では,「正しいこと」といった表現に訳されています。(マタイ 5:10)「忠節」も現代ではあまり使われず,上位者に仕えるという意味合いがあるこの語を至高者エホバについて用いるのは不適切とも考えられるため,改訂版では使用されていません。文脈に応じて,「揺るぎない」,「尽くす」などの表現を使って訳されています。(創世 24:14。詩編 4:3; 18:25)基本的に「淫行」は「性的不道徳」に,「みだらな行い」は「恥知らずな行い」になっています。(ガラテア 5:19)「定めのない時」は,各文脈で本来の意味が伝わるよう,「永遠」,「ずっと続く」,「ずっと昔」といった表現に言い換えられています。(創世 3:22。出エジプト 31:16。伝道 1:10)
古代ヘブライ語とギリシャ語の「種」は,植物の種だけでなく,人間の子孫や精液も指します。しかし,日本語で「種(胤)」を人間に使うの創世 1:11; 22:17; 48:4。ルカ 1:55)創世 3章15節のエデンの約束に言及している場合はたいてい,「子孫」と訳されています。
は,今は一般的ではないため,各文脈で本来の意味が伝わる表現に言い換えられています。( -
聖書用語を分かりやすくする。「新世界訳」の以前の版で使われていた用語の中には,説明がないと正しく理解できない語もありました。例えば,ヘブライ語のシェオルとギリシャ語のハデスは聖書の中で,死んだ人たちが眠っている比喩的な場所を指す語として使われています。これらの語はほとんど知られておらず,ハデスの方はギリシャ神話に出てきて別の意味も持っています。そこで,どちらの語も聖書筆者の意図が伝わる「墓」という語に置き換えられました。シェオルとハデスは脚注で触れられています。(詩編 16:10。使徒 2:27)
これまでの版で,ヘブライ語のネフェシュとギリシャ語のプシュケーは,一貫して「魂」と訳されていました。一般に,「魂」という言葉の誤った理解が多いため,一貫して「魂」と訳すことで,これらの原語を聖書筆者が本来どう使っていたかが読者に分かるようになっていました。原語は文脈に応じて,(1)人,(2)人の命,(3)生き物,(4)人の願望や食欲を指し,(5)死んだ人を意味することもあります。しかし,通常こうした意味で日本語の「魂」を使うことはないため,改訂版では,原語を本来の意味に沿って訳すことにしました。一部,原語や用語集を参照する脚注が付けられています。(創世 1:20; 2:7。レビ 19:28。民数 6:6。申命 6:5。格言 23:2。マタイ 22:37)
「霊」という語も,一般的な使われ方や理解に照らして,使用が見直されました。人によってはこの語を心霊術や死後の世界と結び付けるため,誤解を避けられるよう,より適切で意味がはっきりした表現を使うことにしました。以前の版でよく「霊」と訳されたヘブライ語ルーアハとギリシャ語プネウマには,次のような幾つもの意味があります。(1)風,(2)地球上の生物の生命力,(3)人の心から生じ,何らかの言動へと駆り立てる力,(4)目に見えない源からの力を受けた言葉や表現,(5)目に見えない存在,(6)神が送り出す力です。それで,上記のうち文脈に合った意味が,自然で分かりやすい言葉で表現されています。「風」(1),「生命力」(2),「精神」(3),「預言」(4),「目に見えない方」や「天使」(5)といった具合です。(エゼキエル 37:9。詩編 104:29。ローマ 8:9。ヨハネ第一 4:1。コリント第二 3:17。列王第一 22:21。マタイ 10:1)「聖霊」は「聖なる力」(6)に変更され,エホバ が送り出す力が言及されている箇所で使われています。(ペテロ第二 1:21)また,誤解を与えかねない「霊的」や「霊感」や「霊性」といった語も,「神」や「聖なる力」を含んだ言い回しに置き換えられ,各文脈で正しく意味が伝わるよう工夫されています。(ローマ 1:11。コリント第一 2:13。テモテ第二 3:16。ユダ 19)
以前の版でよく「忠誠」と訳されたヘブライ語にも,さまざまな意味合いがあります。原語は基本的に,正しいことを貫き通すという考えを伝えており,聖書中の用法や実例からすると,エホバへの専心を貫くことが主に論じられています。この改訂版では,それぞれの文脈で考えをよりつかみやすいように訳されています。箇所によっては,「高潔」,「清い」,「潔白」といった語が使われ,「忠誠」の脚注が付いている場合もあります。(格言 2:7。列王第一 9:4。詩編 25:21)エホバ神への専心を貫くことが主に取り上げられている箇所では,「忠誠」が本文で使われています。(ヨブ 2:9)
「油注がれた」という表現も再考されました。この用語は,天に行く希望を持つクリスチャンなど,任命された人が実際の油を注がれていない場合にも使われていました。それで,誤解を避けるため,文脈によっては,「選ばれた」などと訳され,直訳が脚注に挙げられています。(コリント第二 1:21)
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読みやすくする。「新世界訳」のこれまでの版では,補助表現を使うことによって,ヘブライ語動詞の未完了態と完了態の違いをできる限り出していました。例えば,動詞の未完了態で表される継続的行為を,「次いで……した」,「……していった」,「……し続けた」などの表現によって訳出していました。その結果,こうした表現が非常に多く使われていました。この改訂版では,継続的行為を訳出する妥当な理由がある文脈で,「何度も」,「よく」,「続け」といった表現が使われています。(創世 3:9; 34:1。格言 2:4)一方,原文の意味を伝える上で補助表現が必須でない箇所では,読みやすくするために省かれています。
読みやすくするため,日本語の特性に基づいて主語の使用を適度に抑えることもされています。各文をできるだけシンプルにするため,文脈上不可欠ではない場合に主語が文に含められていないことがあります。同時に,読者が文脈で関係している人や場所を追っていきやすいよう,必要な場合には,代名詞を多用する代わりに人名や地名が明示されています。また,接続詞の使用も見直され,読者の注意を妨げないよう,控えめに使われています。
聖書本文への変更は全て,祈りながら,慎重に,そして最初の新世界訳聖書翻訳委員会への深い敬意を抱きつつ,行われました。
改訂版のその他の特色
この改訂版では,多くはないものの脚注が付けられています。主に以下の4種類の脚注です。
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「または」 同様の意味を伝える,原語の別の訳し方。(創世 1:2,「送り出す力」の脚注。詩編 1:2,「小声で読む」の脚注)
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「もしかすると」 違う意味を伝えているものの妥当な,原語の別の訳し方。(創世 21:6,「私と一緒に笑う」の脚注。ゼカリヤ 14:21,「カナン人」の脚注)
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「直訳」 原語の逐語訳か,原語の表現の基本的な意味。(創世 30:22,「子供ができるようにした」の脚注。出エジプト 3:8,「非常に肥沃な土地」の脚注)
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意味や参考情報 名前の意味。(創世 3:17,「アダム」の脚注。出エジプト 15:23,「マラ」の脚注)重さや単位。(歴代第二 3:3,「以前の尺度」の脚注)代名詞が指すもの。(サムエル第一 1:28,「彼」の脚注)付録や用語集の参考情報。(創世 37:35,「墓」の脚注。マタイ 5:22,「ゲヘナ」の脚注)
本書の最初には,「初めて聖書を読む方へ」という部分があり,聖書の基本的な教えがまとめられています。聖書本文の直後には,「聖書の各書の一覧」,「聖書語句索引」,「聖書用語集」があります。用語集は,さまざまな用語の聖書中での用法や意味を理解するのに役立ちます。付録Aには,「聖書翻訳の基本原則」,「 この改訂版の特色」,「聖書はどのように現代にまで伝えられてきたか」,「ヘブライ語聖書中の神の名前」,「ギリシャ語聖書中の神の名前」,「ユダとイスラエルの王と預言者たち」,「イエスの生涯中の主な出来事」があります。付録Bには,地図や図表,そのほか聖書研究に役立つ情報が載っています。
聖書本文の方では,各書に概要が付いていて,章ごとの内容が節番号付きでまとめられているので,書全体を概観できます。各ページの中央の欄には,以前の版から厳選された欄外参照聖句が載せられ,関連する聖句を参照できます。